この言葉、みなさんも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。
確かに、ChatGPTをはじめとする生成AIが話題になってから、海外企業の派手な成功事例ばかりが目立ちます。でも、実際のところはどうなのでしょうか?
私が日々、企業のDX推進や人材育成の現場で見ている実態は、この通説とは少し違います。確かに課題はありますが、同時に大きな変化の波が起きているのも事実です。
今回は、データを交えながら、日本企業のAI導入の「本当のところ」をお話ししたいと思います。
まず驚くべきデータからお見せしましょう。
矢野経済研究所の調査によると、生成AIを活用している日本企業の割合は、2023年の9.9%から2024年には25.8%へと、わずか1年で2.6倍に増加しています。
これは本当にすごい数字です。
4社に1社が既にAIを活用しているということになります。
ただし、調査によって数値にばらつきがあるのも事実です。
例えば、JUAS(日本情報システム・ユーザー協会)の調査では、言語系生成AIの導入企業は41.2%。特に売上高1兆円以上の大企業では、なんと7割以上が導入済みという結果が出ています。
「なぜこんなに数値が違うの?」と思われるかもしれません。これは、各調査が「AI導入」をどう定義しているかの違いによるものです。
こうした違いがあるため、数値だけを見て一喜一憂する必要はありません。
重要なのは、どの調査でも「急速に導入が進んでいる」という傾向は共通しているということです。
では、なぜ「日本は遅れている」という印象が強いのでしょうか。
それは、AI導入を阻む特有の課題があるからです。私は現場での経験から、これを「3つの壁」と呼んでいます。
「とりあえずAIを試してみよう」と始めたものの、明確な成果が見えずに疲弊してしまう。これが「PoC疲れ」です。
ある企業の経営者から聞いた話ですが、「半年かけてAIプロジェクトを進めたけど、結局どれだけ効果があったのか数値化できなくて、追加投資の承認が得られなかった」とのこと。
これは本当によくある話です。
Arpableの分析でも指摘されているように、問題は、AIを導入すること自体が目的になってしまい、「何の課題を解決したいのか」が曖昧なまま進めてしまうことにあります。
経済産業省の予測では、2030年には国内でAI人材が約79万人不足するとされています。
これは以前から認知されている深刻な問題です。
しかも、優秀なAIエンジニアは世界中で引っ張りだこ。高待遇を提示する海外企業に人材が流出してしまうケースも少なくありません。
中小企業にとっては、さらに厳しい状況です。
総務省の調査では、約7割の企業が「社内情報の漏洩」や「著作権侵害」のリスクを心配しています。
確かにセキュリティは重要です。でも、リスクを恐れるあまり、何も始められないのでは本末転倒ではないでしょうか。
「AIに完璧を求めすぎて活用が進まない」ことこそが、最大のリスクかもしれません。
ここまで課題ばかりお話ししてきましたが、実は成功事例もたくさんあります。むしろ、これらの事例から学ぶことの方が重要だと私は考えています。
メタバース総研のまとめによると、三菱UFJ銀行の事例は特に印象的です。
生成AI導入によって、月間22万時間もの労働時間を削減したというのです。22万時間といえば、フルタイムで働く社員約1,300人分の労働時間に相当します。
パナソニックコネクトも、AIアシスタントで年間18.6万時間の削減に成功。セブンイレブンは、商品企画の期間を従来の10分の1に短縮しました。
さらに興味深いのは、単なる効率化を超えた活用事例です。
日本コカ・コーラは、生成AIで1万通りものパーソナライズされた対話ができるキャンペーンを展開。
パナソニックは、AIが設計した電気シェーバーのモーターで、熟練エンジニアの設計より15%高い出力を実現しました。
これらの企業に共通するのは、まず小さな成功体験を積み重ね、その後により大きな価値創造にチャレンジしているという点です。
では、どうすれば日本企業はAI導入を成功させられるのでしょうか。私が現場で見てきた成功パターンから、5つの戦略をご提案します。
AI導入を「IT部門の仕事」と考えているうちは、成功しません。
経営戦略の中核として位置づけ、予算と権限を与える必要があります。
いきなり全社導入ではなく、まずは「議事録の作成時間を半分にする」といった具体的で測定可能な目標から始めましょう。
成功体験が次のステップへの原動力になります。
全てを自社で賄おうとせず、AIベンダーやコンサルティング会社の力も借りる。
同時に、社内での勉強会や研修で基礎知識を広げていく。このバランスが大切です。
AIは良質なデータがあってこそ力を発揮します。
部署ごとにバラバラだったデータを統合し、活用できる形に整備することが不可欠です。
AIは試行錯誤の技術です。
「失敗してもいいから挑戦しよう」という雰囲気を作ることが、イノベーションにつながります。
「日本企業のAI導入は遅れている」という通説は、半分正しく、半分間違っています。
総務省の令和6年版情報通信白書によると、確かにアメリカ(84.7%)と比べて日本(46.8%)の企業AI利用率は低いかもしれません。
しかし、この1〜2年で急速に状況は変化しており、成功事例も着実に増えています。IDC Japanの予測では、国内AI市場は2029年には4兆1873億円を超える規模になるとされています。
今、まさに日本企業にとってAI導入の転換点です。課題はありますが、それを乗り越える方法も見えてきています。
私たちの会社では、企業のAI導入支援と人材育成プログラムを提供しています。
「うちの会社でもAIを活用したいけど、何から始めればいいか分からない」「社内にAIを理解できる人材がいない」といったお悩みがあれば、ぜひお気軽にご相談ください。
貴社の状況に合わせた最適なAI導入戦略を一緒に考えさせていただきます。